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いなくなる人の没分

メロの部屋にいったところ/

 寝台に座ったメロダークの顔を見つめていたが、軽い雑談のつもりで、
「メロダークさんが、今、なさりたいことってなんですか?」
 と聞いた。
 メロダークが「おい!」とびっくりするような大きな声を出した。マナはぶらぶらと揺さぶっていた足をとめて、彼を見あげた。
「な、なんです?」
 驚いてそう尋ねると、メロダークはマナを一瞬見つめ、なぜか狼狽したようだった。
「……いや、なんでもない。私の勘違いだ。そうだな、お前がそんな……そんなはずはない」
「えっ? 勘違いって何をです?」
「なんでもないと言っただろう」
 叱られてしまう。意味がわからない。じっと見つめていると、メロダークが観念したような顔になった。
「マナ」
「はい」
「つまり――」
「はい」
「……二人きりだな」
「そうですね」
 この後他の方とお約束でもあるのかしらと思いながら、マナは相槌を打った。沈黙が落ちた。
「話はかわるが」
 とメロダークが言った。
「ええ」
「昨日テレージャから頼まれて、商船まで荷物を運んだ」
「発掘品をですか? 結局ご実家に送ることになさったんですね」
「いや、詳細は知らんが…」
「はい」
「……とにかく、船を待っている間、テレージャが私に言ったのだ。ホルムでは神官であっても、市井の者と同じように……西シーウァやユールフレールではありえんことだが……俺はそれを聞いてまっさきにお前に……いや……」
 一言、一言を搾り出すように話すうち、眉間の皺がますます深くなっていく。彼が何を言いたいのかわからないままじっと耳を傾けていたマナは、ここでようやくあることに思い至り、はっとして、口を開いた。
「メロダークさん。失礼ですが、もしかしてあなたは私に――」
 メロダークがマナを見た。微かな狼狽と期待が両目に揺れていて、マナは自分の予想が正しかったのを知った。こんなことをこの人に言わせてしまうなんて、なんて鈍感な自分なんだろう!
「――神殿のお給金についてお尋ねになりたいのですか? お仕事がなくて、お勤め口を探しておられるとか?」
「なぜそうなる。金の話ではない」
 メロダークは、またしてもマナがびっくりするような大声をあげた。それからふと表情を変えた。
「なんだ、人手が必要なのか。それなら声を掛けろ。いつでも手伝いにいくぞ」
 そういうわけではなくて、もしもメロダークが神殿で働くようになれば毎日会える。それは嬉しく心強いことなので期待をこめて言ってしまっただけなのだが、そう言うとまた無理をさせそうな気がしたので、「人手は足りています」と断った。メロダークは、少しがっかりしたようだった。マナの顔を見つめていたが、
「……今日は暑いな」
 また話が変わった。
「えっ? 肌寒いくらいですが」
「……脱いでいいか?」
「……上だけでしたら、どうぞ。部屋の中ですし」
 許可を得て服を脱いでいる間は嬉しそうだったが、脱ぎ終わって上半身が裸になると、メロダークはまた、機嫌が悪くなった。
「おい!」
「なんですか?」
「どうして私が脱いでいるんだ」
 本格的に意味がわからない。
「酔っておられます?」
 さすがに心配になって立ち上がり、寝台に腰掛けた。手を伸ばし、メロダークの額に触れた。特に熱もなく、酒の匂いもしなかったが、すると挙動がおかしいのが理由もなく単純におかしいということになり、ますます心配になる。
 マナに熱を測られながら、メロダークはなぜか寄り目になっている。

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