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「仙女の贈り物」おまけ



「そうですね、女の人はお花がいいんじゃないですか」
 騎士の答えは明朗だった。
 一度席を立ちしばらくして戻ってきたアルソンは、片手に鉄の鋏を持っていた。外套をまた着直して、城館を出たアルソンの後について中庭へ向かう。灰色の雲が垂れこめており、寒々しい色彩のない冬の風景であったが、中庭の一角の手入れされた花壇には、何種類もの冬薔薇が咲き乱れていた。マナは両手を打ち合わせ、弾んだ声をあげた。
「素敵! こんな季節に薔薇が咲くんですね!」
「薔薇はいいですよ、薔薇は」
 アルソンがやたらと熱意をこめて同意した。庭師の許可はもらっているから、好きな花を選んでいいですよと言われ、マナは植え込みの間を行きつ戻りつして悩んだ末に、大輪の赤い薔薇を選んだ。贈り物にはふさわしく、この季節の寒さを忘れるような華やかな美しさだと思ったのだ。アルソンはその薔薇を切って丁寧に棘をつみ、マナに手渡した。それから周囲を見回し、先の物よりはずっと小ぶりな、白にも見える薄紅色の薔薇を摘んだ。
「はい、どうぞ」
「わあ、これもかわいいですね! ではこれはアルソンさんからとお伝えして」
「これはマナさんにですよー」
 アルソンが笑顔で言った。
「少し早いけど、僕からの冬至節の贈り物です」
「あっ……ありがとうございます」
 薔薇を受け取ったマナは、手の中でくるくると、小さな薄紅色の花を回した。考えてみると、花を贈られるのは初めてのことだ。確かにこれは、とても嬉しいものだ! 笑顔でメロダークを見上げたマナは、ぎょっとした。メロダークは眉根を寄せ、何かをこらえるような顔になっていた。
「ど、どうなさいました?」
「……なんでもない」
 もぞもぞとつぶやいたメロダークが、ふん、と鼻を鳴らした。
「怒ってらっしゃいます?」
「……そういうわけではない」
「メロダークさん?」
「……」
 二人から離れていたアルソンが、また別の薔薇を手に近づいてきた。
「メロダークさんもどうぞ!」
 先ほどと同じ笑顔でメロダークに差し出す。
「……」
「どうぞ、遠慮しないで」
 黄色い薔薇を受け取ったメロダークは、ますます渋い顔になった。

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