暗い大河の波の間に漂っていた。
曇天に輝く七つの白い星を見た。
あの光へ近づこうと水をかくが、頼りない裸の体は波に押され、前へ進むことができぬ。忘れよ、忘れよ、忘れよと遥か頭上で声がした。
大事な人と約束したことを思い出した。あの星へ通じる谷間の門で、彼は私が来るまで待ってくれているはずだ。二人であそこをくぐろうと、私はあの人と約束したのだ。
お前の身は罪深いと波が囁く。生前に犯した罪のように汚れた水が、口中へどっと入りこんでくる。愛欲のままに快楽をむさぼった体は重く、もがいても進むことができない。
彼は私が辿りつくまで待っていてくれる、あの人はその後の生涯に一度も私を裏切らなかったと思うが、その一方で、彼は一度信仰を捨てた、なぜ二度目がないといえるのかと思う。彼が生前に欲していた光とは、魂の救いを示すあの星であり、神ならぬ己は所詮は代わり身に過ぎなかったのではないかということに思い至った。そのとたん水は氷よりも冷たくなる。寒気が骨に食い込んでくる。
水が重い。水底に縺れあう長い影が蠢く。あの黒い蛇に食われ消えていくのかと震えるが、蛇たちは見向きもせずに行き過ぎていく。消滅すら許されてはいない。
一体何が罪だというのか。
自分はただ他の人々と同じように、男と女がそうするように、愛しあうことは神々を手本にすれば自然なはずだ。
叫ぶ声にどこからか声が答える。
お前は普通ではない、特別なのだ、なぜ普通の女のように愛を楽しめると思ったのか。
「わかっています、わかっていました、でも、もしかしたらと思ったんです。もしかしたらタイタスを倒したことによって、私はもう輪廻と贖罪のこの輪から解放されたのかと――」
もしもなどは存在しない。無数の選択肢の中からお前は選び、選んだ事に報いを受けて、しかしいくら先へ進み続けても救いはなく、何度も輪廻を繰り返す。神々の技を盗み、女神を永遠の牢獄に閉じ込め、この地上に苦痛を撒き散らしたお前が、救済の日を待たずして、なぜ許されると思ったか。信仰を忘れ快楽に身を委ね、罪を重ねた魂よ!
水は男の苦い精の味がする。彼岸の岸辺めがけて泳ぐうち、記憶が波に溶けていく。己の名前は消えてしまい、抱擁もまなざしも失われる。
愛すらもう思い出すことはできない。
end