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溶けていく 11

 微かな快感は、投げ込まれた石が水面に波紋を描くように全身に広がり、下腹にきゅうっと捻れるような奇妙な余韻を残して消えていく。
 舐め、吸い、軽く歯を立て、きつくつかまれては優しくさすられるあちらこちらで苦痛を覚え、しかしどの苦痛もその薄皮の下に、いやらしい、恥ずかしい、尽きることのない、秘密めいた快楽を隠している。
 体の向きを様々に変えさせられ、男の固い首や腕や背や、あるいは胴や腰や太股にしがみついて、声を殺し、大丈夫、と自分にいいきかせた。大丈夫だって最初におっしゃった。だから大丈夫。それだけを繰り返し思う。気がつくと覆いかぶさった男に、じっと顔を見つめられている。安心させたくてとっさに微笑する。メロダークは笑みを返さなかった。視線をあわせたままで男がうつむいた。唾でべとべとになった胸元にまた唇が動いた。乳房の上や、脇の側や、あちらこちらに歯が軽く食い込み、すぐに離れ、獣が肉の味を調べているような動きであったが、なだらかな肩の上でぴたりと止まったかと思うと、そこを強く噛まれ、マナが「あ……あっ……!」と苦痛に震える声をあげた。
 メロダークはゆっくりと歯を食い込ませいき、すぐにぷちりと音を立てて皮膚が破れ、肩の肉に上下の歯が食い込んでいく。痛みが背骨まで届き、筋肉が悲鳴をあげ、マナが激しくもがいた。メロダークは全身で少女を押さえこみ、片方の手で乳房の先端を――先ほどマナが淡い快感に震えた場所を乱暴にいじりながら、それこそが獣のように、少女の肉に深く深く歯を食い込ませ、口中でぴくぴくと熱く震える肉を舐め滲む血を啜り、己の唾液を傷口にこすりつける。
 こらえきれずにマナは悲鳴をあげた。
「メロダークさん!」
 名前を呼ばれたとたん、待てと命じられた犬のようにメロダークがぱくりと口を開け、解放された少女の体が寝台の上で跳ねた。血と唾液が飛び散り、苦痛に歪む彼女の顔と髪を汚した。
「俺の物だ」
 メロダークの声が震えている。あの暑い秋の日、夕暮れの下で耳にしたのと同じ滾る欲情のすべてが、少女の体に染み渡る。小さな耳を男の口の中にぱくりと含まれ、一瞬そこも噛まれるのかと身をすくめ、だが外耳のすべてと複雑な耳の襞を乱暴に舌がなぞっただけだ。代わりに声が少女を噛んだ。
「俺の物だ。全部が俺の物だ。マナ――マナ」
 返事をしようとしたが、熱い空気の塊が喉を塞ぎ、言葉が何も出てこない。手を伸ばし、熱い痛みに脈打つ肩に、男の顔を再び押し付けた。
 してください。好きなようになさってください。傷をつけたいならそうしてください。
 メロダークが噛み跡を舐め、傷ついた皮膚をざらつく舌で擦る。痛みと、ひりつく肉をぬるい唾液で包まれる感触に喉が開き熱い息と一緒に奇妙な声が漏れる。耐え難い痛みを訴えたいのに、唇の間から押し出される声は甘すぎる。
 苦痛と快楽は常にひとつの場所にいる。
 傷を舐めながら、男の手が固く閉じた少女の膝をつかみ、膝の裏に指を這わせ、内腿を撫でた。
 押されて開いた足を閉じようとすると、メロダークの手が膝をつかんでそれを拒み、ああ、閉じてはならないのかと察し、整いかけていた呼吸がまた乱れる。
 人を斬り、肉を裂き、火を放った男の手が、生まれてから一度も陽光に触れたことのない少女の内腿をそっと撫で上げ、腿の付け根で一瞬躊躇したように止まり、だがマナが彼を抱きしめる手に力をこめると、それにうながされるように、柔らかな部分をゆっくりと指先で探りはじめる。




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