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溶けていく 14

 視線を感じて焼き魚の皿から顔をあげれば、テーブルに肘をついたテレージャが、眼鏡の奥からこちらを見つめていた。ホルムに住み着いたもう一人の聖職者は、ひばり亭の夕暮れのざわめきの中でも、相変わらず他人と遠い顔をしている。
 マナと目があうとにこりと笑って、
「少し痩せたかい?」
 と言った。
 マナは口中の物を飲み込んでから、フォークを置き、両手をするりと回して自分の腰を抱いた。肋の浮いた貧弱な胴も骨ばった薄い腰も、厚い冬着の下に隠れている。
「そうですか? 自分ではわかりませんけれど」
「前に会った時よりも女らしくなった……なんだい、その顔?」
「べ、別になんでも……なんでもない顔ですよ」
 一瞬、メロダークとの関係について暗に何かを言われた気がしたが、彼とは何があるわけでもない誰に恥じることもないただの同僚で、それにテレージャがそういった詮索をする人ではないと、二つの理由で自分の考えを恥じて、マナはそっと目を伏せた。
「どうして体が違うんでしょうね、男と女で」
 ぽつりとそうつぶやいた。テレージャは面白そうに笑う。
「不満かい?」
「不満……そういうわけじゃ……でもそうなのかな。人間に男女の区別がなくて皆が同じ体をしているなら、悩みも争いもずっと少ない気がします。ほら、タイタスとアークフィア様だって――タイタスが男でなければ、女神様の信頼を裏切らなかったんじゃないかなって。女同士ならきっともっと違ったことになって……女神様はもちろん、私たち人間も、もっとずっと幸福だったのではないかと思うんです」
 話しながらマナの手は、いつの間にか、服の上から胸元の護符を探っていた。何枚も重ねた服の下で、イーテリオのかけらにはマナの肌のぬくもりが移っているようであった。
「きみにこんなことを言うのも何だけれど、女神とタイタスの間の恋情は、この場合の問題の本質にはさほど関係していない気がするのだけれどね」
 そうでしょうか、と浮かない顔で言ったマナをちらりと見て、テレージャが続けた。
「男と女があるのも、どうしようもない自然の摂理だ。神々に似せて作られた我々さ。三祖神の時代なら話は違ったかもしれないが、彼らは自分たちだけに夢中で、人間を作ろうなんて思いつきもしなかった」
 テレージャは手元も見ずにスープを一匙口に運び、さりげないその仕草の優美さに、マナは少しだけ見とれた。匙を運ぶのと同じように無造作、無作為な優雅さで、テレージャは軽やかに断言する。
「あれこれ悩むには、今はいい季節じゃないよ。考えるのは春にしなよ、春に」


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