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溶けていく 5

 話そうと言った癖に黙りこみ、掌でマナの背中をただ撫で続けている。マナが知っている誰の手とも違う大人の男の手だ。
 泣きじゃくっていたマナの嗚咽がようやくおさまりかけてきた時、メロダークが重い口を開き、「手紙を」と言いかけ、また黙る。
 マナは両手を胸元で臆病に握り締め、すぐ側にある男の顔を見つめる。頭の下にある太い腕が気恥ずかしく、同時に気持ちいい。いや、それを言うなら触れられているすべての部分で、本当はひどく安らいでいる。マナの心だけがまだ抵抗を続けていて、いけない、いけない、いけないことをしている、もうやめた方がいい、自分のためばかりではなくこの人のためにも、そういった悲鳴は、薄闇の中でそこだけ光を集めたように輝く男の瞳を見つめるうちに、徐々におとなしくなっていく。
「最初に別の手紙を書いた」
 と、メロダークが言った。
 今までにメロダークから受け取った手紙は一通しかない。
 それについても今まで話したことがなく、大事なことはまったく話さぬままここまで来たと改めて気づく。
 部屋の空気はいつもと違って重く淀んでいるようだ。お互いの息の音が聞こえる距離で、いつもよりずっと小さな声を、ぴったりと寄り添い、呼吸と共に胸や腹が動くのを感じ、お互いを見つめ合い体温を分けあって、片方が身じろぎすれば二人の下で寝台が軋んだ。
「神殿軍が撤退した場合はああするよう手はずが決まっていた。俺が決めた。しかしいざペンを持つと――躊躇を――破り捨て、書き直し、あの手紙を。だが待っている間ずっと、お前が来なければいいと思っていた」
 短い沈黙のあと、メロダークが言った。
「結局、あれでよかったのだと思う」
 頭を持ち上げ、ほんの少しだけメロダークに近づいて、またぽすんと腕の上に頭を落とす。口を開けたが、泣きすぎた声が掠れて音にならない。咳払いしてから言った。
「べ……別のって、どんな?」
「町を出ろ。遠くへ行け。ほとぼりが冷めるまで隠れていろ」
 少し考えてから、マナはくすりと笑った。
「そんなの読んだらどうしてって、きっとすごくメロダークさんを……あのね、多分、あのお手紙をいただいた時よりもずっと早く会いに行きますよ。走って探しに行くと思います」
「いつものように、懸命な顔で?」
「またお笑いになりますか?」
「いや。驚愕するな」
 真剣な口調にまた笑ってしまう。笑いながら、ああ、やっぱりこの人のことが好きだなと思う。二人でいるとこんなに楽しい。
 メロダークが顔を近づけてくる。さっきよりは落ち着いて、目を閉じ、頬と唇に接吻を受けた。舌先で唇をつつかれ、くすぐったいので顔をそむけて笑おうとすれば、顎を軽くつかまれる。緩んだ唇の隙間から舌が入りこんで来た。



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