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溶けていく 9

 乳房に触れられると息が震えた。
 さきほどまでの茫洋とした愛撫ではない。掌に包み込まれ、乳房の形や、ささやかな重みを意識させられるような強さで揉まれたあと、親指の付け根の肉の厚い部分で、乳首を強く、下から上へと擦りあげられる。唾液に濡れたその部分に摩擦による痛みはなかったが、すごく奇妙な感じがして、背中がぞくりと震えた。
 口が勝手に開いて、ふーっと長いため息のような物が漏れた。
「そこ、あんまり」触らないでくださいと頼もうとしたのに、親指と人差し指でぎゅっと摘まれ、今度は短く、強く、息を吸う。
 敏感な部分を二本の指の間で、平らかに押し潰すように擦られ、悲鳴の形に開いた口が固まってしまう。
 右の乳房にも触れられ、そちらは先端を避けるように指が柔らかく表面を撫ではじめる。左右で非対称な愛撫に体が混乱し、腰を捻って、堪えるように男の腕にすがりついた。
「見るたびに」と、メロダークが囁いた。「こうして」首の付け根を強く吸われる。「こうやって、お前の体を……いつも――」
「んっ……う……」
 涙が溢れそうになったので、慌てて瞬きした。痛みはあったが我慢できぬ種類の痛みではなく、拒絶すればすぐにやめてくれると思うがそれは自分の我がままのような気がする。ゆっくりと擦られ続けるうちに、メロダークの指の熱が移ったように熱くなり、乳首が脈打つのを感じる。痛い。怖い。それなのにもっと触って欲しい。ますますどうしていいかわからなくなって、助けを求め、涙の滲む目でメロダークの顔を見上げた。
「どうした?」
 そう訊いたメロダークの指も手も休まず、なだらかな乳房を愛撫し続けている。とうとう涙が溢れてくる。
「どうもしません。つ……続けてください」
 我慢することに決めて、震える声でそう答える。メロダークの体から手を離し、シーツを握りしめた。
「もっと泣かせたくなる」
 低い声に驚いたマナが目を開けた。少女を見つめる男の眉間には陶然とした気配が漂っていて、マナはひどく混乱した。
「な、なん……? なんで……? お……怒ってらっしゃるんですか?」
「違う。お前に怒りなど、絶対にない。お前のすることの全部が、俺には、俺にとっては……」
 語尾は濁り、うつむいたメロダークが、自分の手の中で柔らかく形を変える乳房を見つめる。
「ん、あ……や……それなら、どうして?」
「さあ。なぜだろうな」
 特に不思議にも思っていなさそうな調子だった。マナの手をシーツから外すと、自分の肩に導いた
 三本の指が柔らかく乳首を捏ね続けている。皮膚の薄い、神経の集中する部分ばかりに刺激を与えられ続け、そこばかりでなく触感のすべてが敏感になり、いつのまにか汗をかきはじめた肌が、男の皮膚に擦れるたび、体の中で何かが膨れ上がっていくようだった。
 ようやく指から解放された乳首を、今度は唇で挟まれやわやわと吸われ、背中が総毛立つ。
「してください」
 と、マナが言った。
「泣くようなこと」
 メロダークの背がぴくりと緊張した。筋肉が盛り上がった広い背をそっと撫で、少女なりの稚拙な愛撫を返しながら、マナは切れ切れに繰り返した。
「メロダークさんがなさりたいことを、全部、私にしてください」



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