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仙女の贈り物 4

12月17日



 フナ風邪かどうかはわからない。
 とにかく風邪を引いた。
 ひばり亭の自室で、顔を赤くしたメロダークは、寝台から動けずにいる。
 曲がりなりにも神殿の子なので、病人の扱いは慣れている。マナはてきぱきと食事を与え薬を飲ませ、清潔な着替えを用意した。もう一枚毛布を借りてきて体を包んでやり枕元に水を用意する。最後にメロダークが起きだそうとするのを制し、
「今日は休んでいてください」
 きつい口調で命じた。
 中途半端に体を起こしたメロダークが、「嫌だ」といつもの頑とした調子を崩さずに言った。
「……妖精の塔に行くのだろう。俺も行く。大丈夫だ。動けば治る」
「駄目。命令です」
 きっぱりとマナが言った。
「こっそりついてくるのも駄目ですよ。熱が下がるまで寝ていること!」
 マナが本気だと飲み込んだのか、メロダークはしぶしぶ横たわった。ずっと天井を睨んでいたが、
「……お前に迷惑を掛けるとは情けない」
 そうつぶやいた。
「迷惑なんかじゃないですよ」
「俺がお前なら、役立たずぶりにうんざりして、もういい、去れ、顔も見たくない。そのように言うだろう」
 マナはびっくりして、メロダークの顔を覗き込んだ。白目は赤く充血し、息は苦しげであったが、熱に浮かされているでもなく、男の意識ははっきりとしているようだった。
「そんなこと、私、まったく思いません。ご病気なのですから、ご自分をいじめるようなことは考えないで、ゆっくりお休みになってください」
 そう言いながら額に手を当ててやると、メロダークの表情が緩んだ。

 窓の外には雪が降りはじている。
 おとなしくなったのだから後はさっさと帰ればいいのに、マナはメロダークの枕元に腰掛けたまま、じっとしていた。一日こうやって、メロダークの側にただついていたいようにも思った。
 もちろんそういうわけにもいかないので、こほんと咳払いしてから、マナは「さあ、もう眠らないと」と言った。
「お眠りになるまで側におりますから」と、これは半分は自分に言い聞かせるつもりで言った。
「……眠らなければ立ち去らないのだな」
 メロダークが珍しく揚げ足を取るようなことを口にした。
 マナはメロダークを叱ろうとしたのだが、哀願するでもなく威圧するでもない無心な黒い瞳を見かえすうちに、気がついたら、「そういうことになりますね」と、言ってしまっていた。

 あれだけ熱があって、薬を飲んだあとなのに、メロダークは夜まで眠らなかった。

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