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仙女の贈り物 8

12月22日



『          告知
      ここにゴミを捨ててはいけない    』


 一体何があったのだろうか。
 泉の前に、先日まではなかった立て札が出現していた。立て札を二度読みなおしたマナは、はっとして、メロダークを振り返った。
 メロダークは眉間に皺を寄せ、その立て札を睨んでいた。
「……こんなところまで来てゴミを捨てるとはな。まったく嘆かわしい。公共心の欠けた人間は、どこにでもいるものだ」
 メロダークは心の底から義憤を感じているようで、その声にも表情にも、後ろめたさや戸惑いは微塵も感じられなかった。この看板と、昨日神殿の厨房に異臭が漂っていたこと、メロダークが一人で外出していたこと、帰宅した時にはやけに満足気であったことを結びつけ、一瞬の間に全力でメロダークを疑っていたマナは、そんな自分を恥じた。
 いくらなんでもゴミはない。
 それから、むしろ私に当てた注意なのでは、と気がつく。
 先日から少々、物を投げ込みすぎているように思える。
 マナがしょんぼりと頭を垂れ、手にした今日の贈り物に視線を落とした時、メロダークが少女の肩に手を置いた。振りむいた彼女を元気づけるように力強くうなずいたあと、道具袋に手を突っ込む。
 メロダークの道具袋からは、生臭い異臭を放つ何かのかたまりがでてきた。
 マナの感覚では非食料に分類されるそれがひばり亭のオーブンから出てきた時、エプロン姿のフランとメロダークは「バイオケーキですね!」「バイオケーキだな」と、感動の面持ちで頷きあっていた。
「あのメロダークさん、とても言い難いことなのですが……」
 ぎょっとしたマナはかなり急いでそう言ったのだが、話が言い難いところに差し掛かる前に、メロダークが泉にバイオケーキをぶちこんだ。
 ルギルダは、これまでにない速度で泉の底から浮上してきた。右手に先程のバイオケーキ、左手には昨日の暗黒鍋を持っており、左手、右手の順番で、それを投げた。
 二つの暗黒料理は、メロダークではなくマナの顔面に続けてヒットした。



 枕がでてくるかなりいい夢を見ていたようだ。
 夢の中では自室の寝台で思い切り枕を抱きしめており、マナはいささかならずだらしのない笑顔になっていた。分厚くて硬い枕の方が寝心地がいいというのは、大発見だった。それにこの枕はとても温かい。ぎゅっと抱きしめたらごそごそと枕が動いた。
「んー……もう、じっとしてて」
 むにゃむにゃと叱ると、枕は低い男の声で「すまん」と詫び、それで目が覚めた。
 飛び起きると、膝を貸していたメロダークと、近い距離でまともに目があった。
「あっ……!」
 狼狽の声をあげたとたん、頭がくらりとする。肩を抱かれ、ぽすんと再び膝の上に転がされる。
「もう少し寝ていろ」
 メロダークが手に持った布で、マナの顎を撫でた。顔に付着した諸々の汚物は、気絶している間に全部拭いてくれたらしい。それだけではなく、治癒術を使われた気配まであった。
「すまなかった」
「あのっ、あの……!」
「……お前が倒れるところはもう見たくないと思っていたのに」
 苦しげな声だった。自分を覗き込むメロダークの目と目があったとたん、マナは二種の暗黒料理をぶつけられた衝撃や、頭痛、吐き気、手足の痺れなどを全て忘れ、メロダークの服をぎゅっと握りしめた。ずっとこのままでいたいと思う。マナはしかし、すぐに身を起こした。
「ルギルダさんは?」
「はい」
 案の定、すぐ側で声がした。
 泉の縁に腰掛けたルギルダは、見覚えのあるサンドウィッチを食べていた。
 今日の二人のお弁当のはずであったが、気絶中に、メロダークとの間になんらかの交渉ややり取りがあったのかもしれない。ルギルダはすっかり機嫌を直しているようだった。それにしてもまたしても恥ずかしいところを見られてしまったとうなだれたマナの視線の先に、今日持ってきた贈り物が転がっていた。
 ルギルダもじっとそれを見つめていた。
「……これはなしで」
 と、リボンのついた瓶を引き寄せながら、マナが言った。
 水から採れた物であり、ホルムの特産品であり、心がこもった物ではあったが、フラン監修のお手製ポララポを今渡すのは、いくらなんでも憚られた。
 了承の印にかルギルダはこくりとひとつ頷いて、並んで座っているマナとメロダークを眺めたあと、どういうわけかひどく満足そうにもう一度頷いた。サンドウィッチの具が魚だったので、機嫌がよくなったのかもしれない。

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