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仙女の贈り物 9

12月23日



 懐かしい顔ぶれが揃いつつある一方で、毎年、毎年、渡り鳥めいた正確さでホルムにやって来たのに、今年は姿を現さず、風の噂にすら消息を知らぬ人物がいる。
 白い波に洗われる港には、ちょうど東方からの船が到着したところだった。商店から出て船から下りてくる人々を見つめていたマナに、メロダークが「どうした」と聞いた。
「もしかしたらラバン爺がいるかもと思って。これまでは、顔を出さない年がなかったから」
「……旅暮らしなら、立ち寄れない事情もあるだろう」
 河から吹きつける刺すように冷たい風に揺れる髪を押さえ、マナは静かに首を横に振った。
「ラバン爺は、ホルムにはもう来ないと思うんです」
「なぜそう思うのだ」
「遺跡のことが解決したから。はっきりとは言われなかったのですが、一年前にラバン爺を見送った時、そのようなことを」
 マナは桟橋から上陸してくる船客ではなく、霧に霞む大河の彼方へと視線を向けた。両目を閉じたマナの手が外套の下で動き、メロダークには少女が、どこかの土地にいる剣客の無事を祈ったのがわかった。
「ラバン爺だけじゃなくてデネロス先生も。先生、本当はもうホルムにおられる理由がないんです。国境でシーフォンくんを助けたと伺った時、先生はもしかしたら、誰にも言わずにここを去るおつもりだったのかなと思いました。シーフォンくんのおかげで、ホルムにまたお戻りになられたけれど。デネロス先生も、遺跡を見張るためにホルムに来られたから。遺跡のせいでたくさんの不幸が起こりました。でも、それでも……」
 マナはそこで一旦言葉を切り、メロダークを見上げた。
「メロダークさんがホルムにお残りになると決められた時、私、本当に嬉しかったんです」
 メロダークはマントの下でとっさに両腕を組んだ。そうしないと、彼女を抱きしめたり、あるいはもっと馬鹿げたことをしてしまいそうになったのだった。


 待つほどもなく、水泡がぽこぽこと浮かんできた。
 広がった波紋を割って現れたルギルダは、片手に緑色の紙片、もう一方の手には二つ折りにしたメモ用紙を持っていた。
「……あなたが落としたのは、どちら?」
 久しぶりにちゃんとやった。
「私が落としたのは、ルギルダさんにお渡しする冬至節のパーティーの招待状ですが、なんですかそれ?」
「……いい物です」
 はい、はい、と渡されたそれを、マナはろくに確認もせずにメロダークに手渡す。メロダークが改めたところ、緑色の紙片はピンガー商店のクーポン券だったがすでに期日が切れており、もう一方のメモには「竜骨の見つめる先 南8」と書いてあった。それは知ってる。両方もうゴミではないかと思ったが、メロダークは黙ってそれを道具袋に片付けた。ここに捨てていくと、また立て札が増えそうだった。
「毎年、冬至節が始まる夜には、ひばり亭でパーティーをするんです。皆で乾杯して、美味しいお料理を食べて、歌を歌って、ダンスを踊って。特別なことは何もしないのですけれど、皆で笑って。ルギルダさんとお会いできたら、皆、喜ぶと思います。あの、形に残る物ではないのですが、今年はルギルダさんも一緒に、楽しい時間を過ごせたらって」
 マナの話を聞き終えると、ルギルダはすっくと立ち上がった。泉の中にずぶずぶと沈み込んでいく。
 あ、これは駄目だったのかなとマナが思った時に、四分の三ほど泉につかったルギルダがぐるりと振り向いた。
「……前向きに検討します」
 そう言い残し、ぶくぶくと沈んでいった。

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